2007'12.07 (Fri) 23:59
大学カールストア校舎。声出し、練習。家からトラムで移動中は常にMDが作動状態。昨日ダビングしたCDの音、昨日の主任ヘッドコーチ・ヴァーグナー氏のコレペティの模様等を随時聴いている。
11:00前
バーデン州立歌劇場カールスルーエ。守衛前にて偶然、先日のヴァーグナー奨学生オーディションの際に選考委員だった往年のヴァーグナー歌手・ヘルマン・ベヒト氏と出くわす。先日の私のアルベリヒ(ヴァーグナーの楽劇《ラインの黄金》“Bin ich nun frei?!“)の歌唱についていろいろ言っていた旨、同じく選考委員だった本学声楽科のハウボルト教授から聞いていたが、実際お互いに話そうと思った矢先に主任ヘッドコーチがお出迎え。後日自分から電話する事にする。
昨日のヴァーグナー氏の部屋では無く、手前の広いアンサンブル部屋。部屋前にはオペラ部門監督代理のブルックス氏と劇場コレペティトゥアのヴェセルカ氏。自分を見るなり、笑顔で、「どう、大丈夫そう?」と握手をしながら声をかけてくれる。いや、こちらとしては「はぁ」とか「何とか」、「多分」とか弱く答えるしか無い(泣)。ブルックス氏も先日開かれたヴァーグナー奨学生オーディションの際に選考委員だったのだが、久しぶりに自分の声を聴き、今般の代役をやらせる事を思いついたのだという。全く以て有難く、期待に応えたいのはヤマヤマだが、ものがモノだけに、ねぇ…。
部屋には既に劇場コレペティトゥアの内田氏がお待ちかねである。今日の練習はヴァーグナー氏が指揮を振って自分が歌う練習。昨日の休憩後の練習時、ヴァーグナー氏がオーケストラ部分を弾き出したのに、自分の歌うべき音がオケの音にうまくハマらず、本当にどうしようかと思ったが、何とかなってきた。でもね、ベルクやシェーンベルク、今般のヒンデミットの曲をやる時、これがハマっていくと、楽しいんだな。細かい音程や言葉の子音の捌き等、細かく直していく。自分の歌唱に少々問題があっても歌唱後に「いやぁ、いいですね」等と言ってくれるのが却ってこわい。きっと、自分が必要以上に心配し過ぎないよう言ってくれてはいるのだろうが…(苦笑)。
稽古後、実際に舞台を見学。舞台に来るのは2,3年前の専属歌手オーディション以来。行ったら、別のプロダクションのオーケストラ練習をやっている最中だった。今日歌うのは舞台上手*の舞台袖。指揮者もきちんと見える。もう、あとには引けないなぁ。
荷物を置いてあった部屋に戻る途中に今日の公演の指揮者であるホッホステンバッハ氏と会い、そのままヴァーグナー氏の部屋で指揮者稽古をする事に(聞いてないよ〜)。第一声からいきなり緊張してまちがえるも、だんだん落ち着いて来、指揮者稽古自体15分程度で終了。12:30前には劇場をあとにする。昼食は近くの中華レストランのランチ。
14:00頃
大学ムズィークテアター研修所。劇場オペラスタジオ研修生でもある同僚のクララはいつもの様に「アニョハセヨー」と明るく自分に対して挨拶してくれるが、さすがに緊張していつもの様に陽気に返事ができない。とはいいつつ、そばにいた研修所(またはライタカークラス)のムードメーカー・ルーヴェンや彼女と話すうちにリラックスしてきた。彼が授業に行った後、廊下で彼女と話をする。月曜に彼女はオーディションを受けに行くのだが、その際の声出しの場所の問題**に始まり、話は更に彼女の今後等々。彼女にはうちの研修所の教授たちだけでなく、劇場の上層部も期待している。彼女には本当に頑張ってもらいたいな。
15:00
研修所内102室。コレペティツィオン授業(シュテッティン教授)。彼に初見で《画家マティス》を弾かせるという暴挙に見事に応えてくれた彼に感謝。初めは楽譜を見て、「本当にこれ、引き受けたの?」と、大丈夫かと言わんばかりの表情だったものの、細かい点を修正しながら一通り通したのち、安心したよう。当の本人は心配の塊ですがね…。
授業後は所内のソファーで30分ほど仮眠。
17:30
再び大学カールストア校舎。練習室は全て塞がっていて、廊下のテーブルのある所でひたすらCDの録音を聴きながら口ぱく練習。通常、オペラやオラトリオの類のソロをやる時は、合唱指揮の仕事と全く同じように、自分が歌う所の歌詞の訳や音取りだけに留まらず、その前後(または全体)のシーンで何が起こっているかを掌握するのに努める。更に、ソロをやるだけであっても、ピアノ伴奏譜だけでなく時にスコアを見、指揮を振れるようになるまで曲全部の音楽を掌握する。でも、今回は全くそれが出来ない。せめて、自分の出演する第二景や第六景だけは、と楽譜を見ながらオケの音を耳から叩き込む。
19:00
劇場。客席入口には通常、今日の演目表が貼り出されるのだが、何と…
Matis der Maler
Oper in 7 Bildern von Paul Hindemith
Text vom Komponisten
Musikalische Leitung: Jochem Hochstenbach
Inszenierung: Alexander Schulin
Bühnenbild: Christoph Sehl
Kostüme: Ursina Zürcher
Chor: Carl Robert Helg
Übertiteln: Pascal Paul-Harang
Kardinal Albrecht von Brandenburg: Scott MacAllister
Mathis: Thomas Johannes Mayer
Lorenz von Pommersfelden: Takeshi Hatsukano (singt, a.G.), Urlich Schneider (spielt)
Wolfgang Capito: Peter Galliard
Ursula: Christina Niessen
Hans Schwalb: Ks. Klaus Schneider
Regina: Diana Tomsche
Truchsess von Waldburg: Luiz Molz
Sylvester von Schaumberg: John Pickering
Der Pfeifer: Gideon Poppe
Gräfin Helfenstein: Kerstin Witt
Graf: Wolfgang Beeh
Badischer Staatsopernchor, Extrachor des Bad. Staatstheaters, Mitglieder der Musikhochschule Karlsruhe
Statisterie des Bad. Staatstheaters
Badische Staatskapelle
自分の名前が…!!
てっきり開演前にチョロチョロっと放送でアナウンスするぐらいかと思っていたのに…。
楽屋口から楽屋食堂に行き、軽くキッチュを食べながらMDと楽譜で音を叩き込む。食後、昨日昼に案内された舞台裏に行ってみると、譜面台が無い。ダメだなぁ、と思ってスタッフの所に聞きに行こうと思ってふと舞台を見ると、

舞台横に譜面台があるではないか…唖然。思いっきり目立つでは無いか、これ…。
20:00
公演開始。
序曲と第一景途中までは下手の舞台外で譜読み。時折通りかかる研修所の(オペラスタジオの研修生も兼ねる)同僚たちがToi Toi Toiと声を掛けてくれる。特にダニエラは以前、僕と同じ様なシチュエーションがあったらしく、「タケシ、絶対タケシはうまく歌えるから」と励ましてくれた。有難うな。こういう時の同僚の存在って大きいわ。
いよいよ私の歌う本番・第二景。いきなり、合唱の部分で楽譜を見ていこうとしたら、CDで聴いている以上にいろんな音が飛んで来て、ビビってしまった。その瞬間、先刻のシュテッディン教授の言葉が頭の中をよぎる、「タケシ、オケを聴け」と。まさに自分のそばでは低弦や金管楽器群が音を発している。そうだ、と我を取り戻し、その後暫くして第一声を発する。あとは、小節ごとに軽く指で楽譜を叩きながら(聴衆に気付かれないように)慎重にやっていく。譜面台の位置の設定上、初めの指揮者のキューは拾えても、その後は大切なところ以外は全く拾えず、楽譜に集中しつつ、かと言って走ってテンポが速くなってしまわない様にする。自分だけが頼りだ。
この役で重要な第二景は何とか言葉の言い間違えは1箇所に留めるも、3,4箇所だったか、「あっ、指揮とはずれているかもしれない」と思われる箇所があった。でも、とにかく過去は振り返らず先に先に進む音楽に付いていくしかなかった。何とか歌い切った。
上手から下手に戻る際、怖さがあとから自分の身に襲い、アワアワと体や口の震えが止まらなかったっけ。
下手に戻ると、オペラ部門監督代理のブルックス氏が待ち構えている。うわぁ、文句言われるかな、と言われるかと思っていたら、満面の笑みで、「本当によくやってくれた」と言って貰えた。その場で、私には勿体無い様なギャラの金額提示を受けました。他の同僚や劇場スタッフからもお褒めの言葉を頂きました。
休憩後の第六景は合唱と管弦楽の音にかき消されあっという間に終了。ヴァーグナー氏の「ここは(何かあっても)大丈夫だから」という言葉がよくわかった。
で、自分の出番が終わったので、(よく管弦楽のバンダの人が自分の出番が終わると「お先に〜」って帰る要領で)帰ろうとしたらスタッフに呼び止められ、「カーテンコールがあるので残って下さいね」と言われる。いやいや、だってただ歌っただけだし…と言ったけど、それでも、と言う事で最後まで残った上、図々しくもカーテンコールに登場させて頂く事になった。一人ずつのコールの際には、舞台上で演じていたシュナイダー氏と共に登場。どなたか女性の聴衆の方から「ブラヴォー」と声を掛けていただきました。
終演後は指揮者に挨拶。休憩中にもちょっと言われたけど、「何回か指揮と合わない所があったね、でも、これだけ難しい曲なんだから仕方ないよね」って言われた。まぁね、考え方が2つあって、「小さい役でも、これだけ難しい曲を一日で仕上げるのは至難の業だ、だから完璧にできるなんてあり得ない」と言うのと、「それでも、コレペティ稽古をいれてもらってやって、間違えているんじゃ…」というもの。「よく一日でここまで頑張った」的な或る種の達成感はあるけれど、やっぱプロなんだしノーミスに近い状態まで持って行く事が出来なかったものか、とも思い、楽屋食堂で同僚たちとの夜食の後の帰路で後悔の念に苛まれる事となる。帰宅は1時前。
*見物席から見て右側。
**彼女が受けに行く代理店 Agenturには声出しできる場所がない。以前自分が受けに行った場合は或る音楽院の練習室に勝手に侵入して声出ししていたが、近年使用がかなり厳しくなって、自由に立ち入る事が出来なくなってしまった。
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